イギリス、そしてヨーロッパでの野球普及を目指して、イギリス野球関係者は性別、年齢に関係なく、より多くの層の人が野球を知り、触れることができる機会を作ってきました。
いわゆる草の根運動を長年に渡って継続していますが、その中の一つとして視覚障害を持つ人が楽しめるブラインド野球への参入も挙げられます。
イギリスで人気が上がりつつある野球の中でも、今回はブラインド野球についてご紹介します。
イタリア式ブラインド野球の歴史
2024年イギリスは第2回WBSCブラインド野球世界大会のホスト国となり、参加国8か国中、4位となりました。更に2025年10月、イタリアで開催されたヨーロッパチャンピオンシップでは準優勝を果たしました。
ブラインド野球とは視覚障害を持った方たちが野球を楽しめるようにという考えのもと、イタリアで発達した競技です。視覚障害者の方々が参加する野球には、道具、ルールなどが少しずつ違ういくつかのものがありますが、ここではイタリアで誕生し、イギリスでも取り入られているイタリア式ブラインド野球について語ります。
以下、記事は主に
イタリアAIBXCホームページ:https://www.aibxc.it/
WBSCによるYouTubeブラインド野球紹介動画:
https://www.youtube.com/watch?v=y8jRMa1ykl8
を参考にさせていただいています。
イタリア・ボローニャ出身のアルフレッド・メリ(Alfredo Meli:1944年-2010年)という1960年代から70年代にイタリアで活躍した野球選手がいました。
彼はプレーヤーを経て、コーチ、監督としてもイタリア野球に貢献しましたが、視覚障害を持つ野球好きの友人がいたことから、目が見えなくても野球を安全にプレーして楽しむことができないかと考え、ルール、道具を整えていきました。
そして野球が本来持つ楽しさを失うことなく、プレーできるブラインド野球が出来上がっていきました。
1994年にはブラインド野球の試合が初めて行われています。
イタリアのブラインド野球はBXCというボランティア団体によって支えられていきますが、1998年にはAIBXC(Associazione Italiana Baseball Giocato Da Ciechi)という非営利団体として成立し、その働きにより、ブラインド野球の定期的な試合、チャンピオンシップなどが開催されるようになります。
更に2005年にはAIBXCはイタリア野球・ソフトボール連盟(FIBS)に加盟し、2011年にFIBSはパラリンピック連盟として正式に認定されます。2018年にはイタリア視覚障害野球リーグ、LIBCI(Liga Italiana Baseball Ciechi & Inpovedenti)が設立されました。
2019年10月、イタリア、ローマにて視覚障害野球の世界大会、Mole’s Cupが開催されます。
9回目となるこの大会には、大会史上最多となる6か国、6チームが参加しました。参加国は、イタリア、ドイツ、フランス、キューバ、アメリカ、そしてイギリスです。こうして、ブラインド野球はイタリアが牽引するかたちで、ヨーロッパ、世界へと広がっていきました。
2019年11月、大阪で開催されたWBSC総会で、AIBXCはイタリアで発祥したブラインド野球が更に世界各国で普及できるようプレゼンテーションを行いました。
このような20年以上に及ぶ根強い普及活動を経て、2022年オランダ、ビーク(Beek)にて第1回WBSCブラインドベースボール国際大会が開催されます。2023年にはイタリア、ボローニャ(Bologna)にて、ヨーロッパ大会が、そして2024年9月、第2回WBSCブラインドベースボール国際大会のホスト国はイギリスとなりました。
イタリア式ブラインド野球のルール
次にイタリア式ブラインド野球のルール、道具などについて簡単にご紹介します。
バット、グローブについては一般的な野球、ソフトボール共通のものが使用可能です。
特徴的なのはボールです。ボールは日本の軟式野球のボールのようなゴム製で中は空洞になっています。6つの穴が空いており、ボール内部に鈴が2つ入っています。

クラッパーは木製やプラスティック製のものがあります。攻撃時、2塁、3塁近くに走者を音によってアシストするランナーコーチが立ちますが、クラッパーは、その時、叩いて使われるものです。手のひらサイズで、音の違いを出すために、2塁用は片方だけにフェルト製の裏地を使い、3塁用は両面がフェルトの裏地になっています。


チームは5人の視覚障害者と2人の晴眼者によって構成されています。
守備時、ポジションは、サード、ショート、レフト、センター、ライト、及び晴眼者によるアシスタント2塁手となります。
ブラインド野球ではセンターからライトフィールドは使用せず、センターからレフトフィールドのみで展開されます。通常の野球でいうショートの後方にセンター、セカンド後方にライトが位置するイメージです。この配置に加え、マウンドアシスタントとして晴眼者がマウンド付近に立ちます。
攻撃時は、晴眼者2人はクラッパーを持ち、それぞれ2塁、3塁のベースコーチとなります。
ピッチャー、キャッチャーはおらず、打者はノックを打つようなかたちで、自分の手で放ったボールを打ちます。打球がヒットとなるためにはゴロのような感じで最低1回は内野フェアゾーンでバウンドしなければなりません。
ライトフィールド側はファールゾーンに含まれ、ファールはストライクとカウントされ3ファールは3ストライクでバッターアウトです。また、1度もバウンドせずに外野に飛んでいった打球もアウトとなります。
ヒットを打ったバッターは1塁へ向かって走ります。1塁ベースは電子音が鳴る仕組みになっており、走者はその音を聞きながら1塁へ到達することができます。
走者は1塁を走り抜け、2塁到達を目指します。この間に守備陣によって捕球されたボールがアシスタント2塁手に届けばランナーはアウト、アシスタント2塁手のグローブにボールが収まる前にセカンドベースに到達できればランナーセーフです。
2塁ベースは走者用のベースと、その4メートルさがった位置にあるアシスタント用のベースと2つあります。ランナーがホームへ戻ると得点は通常の野球と同じです。また、ボールが捕球されることなくホームランゾーンまで転がっていけばホームランです。
文章だと、なかなかイメージしにくいかもしれません。2024年に行われたWBSCブラインドベースボール国際大会の試合の様子などがYouTubeで公開されています。
ボールを打った後、全速力で走塁する様子、アシスタントとの連携で、うまく進塁したり、あるいは逆に走者をアウトにしたり、見ている間に夢中になってしまう迫力、魅力、面白さを感じます。
イギリスにおけるブラインド野球
イギリスでは2019年にUKBAA(イギリス視覚障害者野球協会、UK Blind Baseball Association CIC)が設立されました。
以来、視覚障害を持った方々が、積極的にスポーツ、野球に参加し、楽しめる環境造りとブラインド野球の活性化を目指し活動を続けています。
これまでの国際大会での主な実績は
2019年第9回Mole’s Cup(視覚障害者野球国際大会)初参加
2022年WBSCブラインドベースボール・オランダ・ビーク国際大会準優勝
2023年WBSCブラインドベースボール・イタリア・ボローニャ欧州大会3位
2024年WBSCブラインドベースボール・イギリス・ロンドン国際大会4位
2025年ブラインド野球・欧州チャンピオンシップ・イタリア・ネットゥーノ準優勝
となっています。
2024年9月27日-29日に渡り行われた第2回WBSCブラインドベースボール国際大会は8か国(キューバ、イタリア、パキスタン、イギリス、アメリカ、中国、オランダ、ハンガリー)とオランダで行われた第1回大会(6か国参加)を上回る規模となりました。

イギリスにとっては公式に行われる野球国際大会の開催国となるのは初めてのことで、そうした意味でも、とても意義のある大会でした。会場となったのはロンドンからほど近いファーナムパーク(Farnham Park)です。
ファーナムパークは、2013年のオープン以来、本格的な野球・ソフトボール施設として設備を整え続けています。ここで、野球の国際大会が開催されたということは、やはりオープン以前からの大きな夢を一つかなえたといえると思います。
(ファーナムパークについて:https://ji-onbaseball.com/uk-baseball5-farnham-park/)
2025年にはイギリス国内でブラインド野球クラブチームのリーグ戦が始まりました。
現在、ブラインド野球のチームはイギリス国内に3チームですが、近年の国際舞台でのチーム・グレート・ブリテンの躍進により、今後、イギリス内でもより多くのチームが誕生し、ヨーロッパ有数のプレーヤーが出てくる期待は大きいでしょう。
イギリスのブラインド野球についての情報は以下より得ることができます。
日本におけるブラインド野球
ところで、このイタリア式ブラインド野球は日本でもサウンドベースボールという名称で紹介されています。
一般社団法人サウンドベースボールジャパンの代表理事、成田健太郎さんという方を中心に熱心にプロモーション活動を進めていらっしゃいます。
サウンドベースボールジャパン主催のブラインド野球体験会がありましたので、僕も参加させていただきました。
ブラインドホールドというスキーのゴーグルのような用具(ゴーグルよりずっと軽く、内側もフォームコーティングされています)を着用し、目が見えない状態で、バッティング、守備を実体験しました。
真っ暗な世界、音だけを頼りにプレーする野球-全く初めての体験でした。
まず、バッティングですが、左打ちの僕は自分の右手で持ったボールを落とし、落ちてきたボールを地面につく前に、左手に持ったバットで打つ。ノックに似ているといえば似ていますが、片手で打つ、目の見えない状態で打つ…やはりノックとは全然違います。タイミングがわからない、ボールのありかもわからない、バットにあったったのは20回中、数回というところでしょうか。しかも、ほとんどがファールとなり、ファール3回でアウトなので、結果はふがいないものでした。
守備は転がしてもらったボールを取るのですが、音を頼りにといっても、転がるボールの中にある鈴の音は聞こえてくるのですが、それより“見えない”という恐怖、不安で、動きが硬くなってしまいました。正直、長年、野球をやってきたとは言えない結果となりました。
しかし、鈴の音、クラッパーの音、ランナーが走る音、それらは、目が見える状態で聞いている時とはまるで異なる音として感じ、心躍るような新鮮な感覚もありました。これがブラインド野球の音か、世界か、とほんのわずかな時間でしたが、とても心に残る体験をさせていただきました。
まとめ
近年、イギリスでは通常の野球とともに、ブラインド野球への関心も高まっています。第2回WBSCブラインドベースボール国際大会も開催されました。
性別、年齢、コンディションに関係なく、みんなで野球、ソフトボールを楽しもうと地道なプロモーション活動を続けているところがイギリス野球界の素晴らしいところではないでしょうか。そして、少しずつ、少しずつ、1年、1年と成果が実りだしている様子がうかがえます。
日本でもブラインド野球(サウンドベースボール)普及へ向けての活動が始まっています。
日本チームとイギリスチームが国際試合で対戦する日もきっと来るでしょう。楽しみな未来です。野球大ファンの1人してブラインド野球(サウンドベースボール)も応援していきたいと思います。
⚾このブログはイギリス野球、ソフトボールとそれに関わる全ての組織、人々を応援しています⚾

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