2018年5月8日、イギリスの野球ファンにとって最高に嬉しいニュースがアナウンスされました。2019年6月にメジャーリーグ公式戦ロンドンにて開催決定。このニュースはすぐにイギリスの各野球チームのホームページでも報じられました。
メジャーリーグの公式戦がイギリスで開催されたっていうけど、野球の試合をする場所があるの?野球の試合を見るイギリス人っているの?
野球の試合をする場所もありましたし、試合を見に来るイギリス人もいました!
メジャーリーグの公式戦は日本でも開催されているけど、日本のように盛り上がるの?
観客動員数に関していえば日本と引けを取らないほどでした。
はい、大変な盛況でした、とも言えるかもしれませんが、実際、2日に渡ったロンドンシリーズに足を運んだ僕も、色々感じるところはありました。
この記事では、2019年6月、イギリス・ロンドンで行われたヨーロッパ初となるメジャーリーグ公式戦、ロンドンシリーズ開催にあたっての
*イギリスの野球ファンの反応・様子
*開催一週間前の野球ファンの様子
*試合会場や試合の様子
*イギリス人の野球ファンは増えたのか
についてご紹介したいと思います。
イギリスやヨーロッパでの野球人気についてご関心のある方は、是非ご覧ください。
ロンドンシリーズ開催決定からチケット販売まで
待ち望んだ開催決定
2018年5月8日、一年後に、ヨーロッパ初のメジャーリーグ公式戦がロンドンで開催決定と発表されました。
ロンドンでメジャーリーグ公式戦開催実現の背景には、次のようなことがあります。
●MLBヨーロッパがイギリスを含むヨーロッパでの市場拡大に期待(既にNFL-アメフト、NBA-バスケットボールは既にロンドンで公式戦を開催、成功)。
●イギリスにおける野球認知度、人気の向上。これにはソフトボールや女子プレーヤーの増加も含まれます。
●また、2016年にロンドン市長に就任したサディーク・カーン氏の、ロンドンを世界のスポーツの中心地としたいという思いも、メジャーリーグ公式戦開催実現を後押ししたといえるでしょう。
ロンドンシリーズ開催決定前の数年の間は、冬になるたびに、来年か再来年、メジャーリーグの試合、ロンドンでやるみたいだよ、という噂が野球ファンの間で飛び交っていました。
僕は、ロンドンでのメジャーリーグの試合の開催を熱望してはいましたが、ふさわしい場所がない、だからまず無理だろうと思っていました。
それが、遂に開催決定、一年後、それも対戦カードは、伝統の一戦といえるニューヨーク・ヤンキースとボストン・レッドソックスの2試合。もちろん、当時、僕が所属していたチームでも、この話でもちきり、イギリスの野球ファンのSNSも沸きに沸きました。
チケット購入時の混乱
チケット購入受付開始は2018年12月、先行予約販売受付は11月でした。
先行予約販売に関しては、僕もそうでしたが、申し込みをしていたのに、なぜか購入できず、結局、一般販売が始まってからの購入になったというケースがありました。
一般発売開始当日にも、購入希望者が殺到して、なかなかサイトにアクセスできず、購入完了までいけない、という状況が多発。中には複数のパソコンを使って、とにかく早くアクセスしたいと試みた人もいます。
それなのに、心無い人たちによって、その日のうちに、チケットが倍以上の値段で転売されたりもしました。
チケット購入をめぐり、喜び、怒り、不満など様々な声がネットに出回りますが、やがて、座席の追加もされ、僕のまわりの観戦希望者は皆、なんとか無事、チケットを手に入れることができました。
チケットは、チケットのみの料金で(飲み物などを含んだセット販売のものは除き)20ポンドから385ポンドの幅がありました。当時は1ポンド約130円くらいだったので、日本円で2,600円から50,000円くらいです。
セット販売のものは、もっと高額で、後々まで売れ残っていた記憶があります。
ロンドンシリーズ開催直前、野球ファンは盛り上がる
MLBサイトでの盛り上げ
チケット販売開始から半年が経ち、試合まで一か月を切った頃から、ロンドンシリーズ公式ホームページ掲載の情報が充実してきました。
試合会場で販売予定のジャンクフードが、ニューヨーク発の、ボストン風の、といったうたい文句と一緒に紹介されました。缶に記念ロゴの入ったビールも掲載されたり、会場脇に設営予定のバッティングケイジ、バーカウンター、などなど、気分を盛り上げるためのしかけが少しずつ公開されていきました。
このほかにも、この頃、MLBのサイトで目立つようになったのは、野球の歴史を語るとイギリスにいきつく、といった話や、ロンドンシリーズ開催までの取り組みなどといった記事です。元ヤンキースのアレックス・ロドリゲス氏が先にロンドンを訪れ、スタジアムをレポートしたり、ロンドンやイギリスの野球事情を紹介したりという企画もありました。
ロンドン市内の盛り上がり
開催一週間前くらいになると、ロンドンシリーズ、ヤンキース・レッドソックス戦を記念する大きなロゴオブジェが1~2日おきにロンドンのにぎやかな場所を移動してロンドンスタジアムまでたどり着くという企画もありました。オブジェを追いかけて写真を撮り、SNSにあげようというものです。
また、ロンドンヤーズ(London Yards)という仮説施設も作られました。
そこでは、記念グッズの販売、バッティングケイジで野球体験、外広場には巨大スクリーンが設置され、メジャーリーグの試合のビデオが流されました。(ロンドンシリーズ開催中はライブ中継)
もちろん、ビールや食べ物も販売しています。
6月は午後9時過ぎでもまだ明るく、気候もよいので、たくさんの人が、外で野球を見ながら楽しい時間を過ごせる場となっていました。好きなチームのユニホームを着ている人も多く、僕も、行ってみましたが、こんなに野球ファンがいるのか、と嬉しくなりました。
近くにいた人に聞いてみると、以前、アメリカに行った時にメジャーリーグを見て、懐かしくなって、とか、クリケットに似ているので興味を持った、といった理由で来たそうです。
新聞で取り上げられることも多くなり、ヤンキースとレッドソックスがそれぞれ、アメリカから飛行機に搭乗し、移動してくる様子がホームページで流れると、イギリスの野球ファンも、いよいよ最高の盛り上がりとなりました。
試合日程直前には、ヤンキースの選手が、ロンドンで野球をする子供たちに指導をしてくれるという企画もありました。指導者の中には、元ヤンキースの松井秀喜さんもいらっしゃったそうです。
指導が行われた場所はロンドン市内のチームのグラウンドで、僕も試合で何度も行ったことがあるところです。フィンズベリーパークという広大な公園の一角で、野球場といっても観客席はありませんし、かろうじて、野球設備が備わっているという場所です。僕は参加しませんでしたが、こんなところ(といってはよくないかもしれませんが)にメジャーの選手が来てくれたんだ、と感激しました。
ロンドンシリーズ2019開催!
<会場>ロンドンスタジアム
試合会場となったロンドンスタジアムは、ロンドン東のストラットフォードにあります。
2012年のロンドンオリンピック、パラリンピック用に建設されたスタジアムで、陸上競技や開会式・閉会式に使われました。その後、多目的競技場として改築され、2015年のラグビーワールドカップでも利用されました。今では、フットボールクラブ、ウエストハムユナイテッドの本拠地となっています。
ロンドンシリーズ会場設営にあったては約400人で18日間かかったそうです。340トンの野球用の土はアメリカから、約13,200㎡の人工芝はフランスより取り寄せています。
サッカー競技場が野球場になるのか、できるのか? 横に細長すぎるのではないか?
そんな風に思っていましたが、実際、観客席からグラウンド全体を見渡した第一印象は、平たい!でした。ホームベースからセンターの一番深いところまでが、短く感じましたし、両脇のファールゾーンがとても広く感じました。
ロンドンシリーズで対戦するニューヨーク・ヤンキースとボストン・レッドソックスのホームグラウンド、そして東京ドームの広さの比較は以下の通りです。
やはり、横に長い、という感じです。
ホームラン連発の試合
試合は、6月最後の週末。時期的には、イギリス野球もシーズン真っ只中ですが、この時だけは、イギリス野球は試合なしです。特別な理由がなければ、イギリス中の野球プレーヤーが、観戦にやってくるはずです。
試合前のセレモニーはイギリス、アメリカの国旗がスタジアムに広がり、両国の国歌がながれ、長年、この時を待ち焦がれたイギリスの野球ファンにとっては感動的なものだったと思います。
試合は両日ともボストン・レッドソックスのホームゲームとして行われました。
初日、土曜日は18:00からのナイター、2日目、日曜日は、15:00からのデーゲームでした。
試合は、2日間合わせて合計50得点、ホームランは10本。(1日目、17-13でヤンキースの勝利、2日目、12-8でヤンキースの勝利)
正直、僕は途中で、これ、台本があるのかな? と思ってしまいました。
ホームランは確かに野球の醍醐味ですし、得点がどんどん入る試合は、動きがあって面白いです。初めて野球を見る人たちにとっては、エキサイティングで楽しい内容だったかもしれません。ですが、普段から野球を見ているファンにとっては、大味というか、試合ではなく、ショーを見ているような感じだったのではないでしょうか。僕は、少し、そんな印象を受けてしまいました。
そうはいっても、待ち望んだロンドンでのメジャーリーグの公式戦。楽しい体験だったことに変わりはありません。
週明けの月曜日、イギリス野球ファンの間のSNSには、魂が抜けてゾンビのようになってしまったというった投稿もありました。
ロンドンシリーズ開催でイギリス人野球ファンは増えたのか?
新しいファンを獲得したい
2019年ロンドン・シリーズのパンフレットには、ごく基礎的な野球用語やルールの説明がありました。
ほほえましいというか、やはり野球は認知度が低いのだな、と思いました。
また、『今回のロンドンシリーズでメジャーリーグに興味を持ったけど、どのチームを応援したらいいのか決められないという方たちは、好きなフットボールプレミアリーグのチームと似たチームを応援してみては?』とイギリス・プレミアリーグとアメリカ・メジャーリーグのチームの比較をする記事もありました。
ちょっとでも野球に興味を持ってほしい、ファンになってほしいという思いが伝わってくるパンフレットです。
やっぱり野球を知らないイギリス人は多い
ウォータール駅はロンドンでも大きい駅ですが、そこにロンドンシリーズに関するグッズを売るコーナーができていたので、行ってみました。
そこのスタッフが、僕に野球って知っているのかと聞いてきたので、たまたまスマホに残っていたバッティングセンターに行った時、撮った動画を見せました。すると、おー、すごいな、これが野球か。お前、百発百中だな、もしかして、ロンドンスタジアムの試合に出るのか?と。
僕が試合に出るのかというのは冗談でしょうが、ロンドンシリーズのグッズを販売しているスタッフも、野球のこと知らないんだなと苦笑してしまいました。
チケットはソルドアウトと言われているが…
ロンドンシリーズ1日目の入場者は59,659人、2日目は59,059人と公式発表されています。チケットはソルドアウトだったと。
しかし、実際、会場での印象は、特に2日目は空席もまーまー、あるなーでした。
もしかしたら、長い試合だったので、最初から最後まで見なかった人もいたのかもしれません。会場の雰囲気を楽しんだら帰った人もいたのかもしれません。(最初から最後まで空いたままの席も結構あったんですが)
両日とも日本人の姿も目立ちました。また、試合前後の期間、ロンドン中心地を走る地下鉄には、メジャーリーグの試合と合わせてロンドン観光のツアーに来ているのだな、とわかるアメリカ人も多く見かけました。
僕の席の後ろにはフランスから来た子供中心のグループがいました。前には、スペイン語を話すカップルがいました。
イギリス外から来た人たち、イギリス在住の外国人、こういうグループの人たちが、もしかしたら入場者の半分以上を占めていたのかもしれません。
野球が決して人気のスポーツではないイギリスで初のメジャーリーグ公式戦で、あれだけ大きな会場がいっぱいとなったのですから、大成功だと思います。
しかし、翌年のロンドンシリーズのチケットは、そんなにあわてて買わなくてもいいかも、と思ってしまったのも事実です。20年前と比べると野球人口がだいぶ増えたといえども、イギリスを含むヨーロッパで野球は、残念ながらまだまだメジャーなスポーツではありません。
また、翌2020年に予定されていたロンドンシリーズ第二弾、シカゴ・カブス対セントルイス・カージナルズはコロナパンデミックで中止となってしまいました。ロンドンにメジャーリーグが戻ってくるのは2023年、4年も待たなければなりませんでした。二年連続してロンドンシリーズか開催されれば、もっと注目を浴び、新しいファン獲得の可能性も上がっていたかもしれません。
まとめ
2019年6月、イギリスの野球ファンにとって待望のメジャーリーグ公式戦が開催されました。ヨーロッパ初となるものです。
販売当初はチケット入手も大変なほどで、野球ファンの間では、大変盛り上がった大イベントとなりました。しかしながら野球はまだまだマイナーなスポーツです。イギリスで野球が日常的に話題になることはありません。2019年のロンドンシリーズでは、イギリス人以外の観戦者の方が多かったとも思われます。
しかし、ロンドンシリーズは2023年に再び開催されました。
イギリスを含むヨーロッパで今後も少しずつ野球人気が高まることが期待されます。
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